何を目指すのか

Befor After

 2004年の10月にIT記者会が発足するまで、エンタプライズ系IT業界(特に受託型ITサービス業)には、情報発信のハブがありませんでした。また専門記者は、所属する媒体の枠を超えて交流する場を持っていませんでした。さらにIT産業は急速に業容を拡大してきたうえに、技術革新が激しいこともあって、過去の出来事や資料を記録・保存していませんでした。

 そのような状況のなかで、専門記者たちの意見交換の場が受託型ITサービス企業の情報発信ハブに発展し、ひいては現場視点から課題の解決に資することができないか、という思いがありました。

 検討会がスタートしたのは2003年の秋でした。当初はIT専門記者や業界団体の関係者の“飲み会”でしたが、回を重ねるうち、定常的な《緩やかな組織》の構想が形作られていきました。2004年の6月、関係者の思いを箇条書きにまとめたのが、定款の第3条「目的」に示した次の項目です。

 1.情報通信利用技術に関する図書の集積と公開。

 2.情報通信利用技術に関する情報提供に従事する者の情報交換と相互研鑽。

 3.情報通信利用技術及び情報通信産業の発展のための講演会の開催並びに文献の作

  成・提供。

 4.情報通信利用技術及び情報通信産業の発展のための市場・技術動向等の調査、企画

  立案の受託並びに実施。

 5.情報通信利用技術及び情報通信産業における国際交流の促進支援。

 6.前各号に掲げる事業に附帯又は関連する事業。


開かれた記者クラブとして

 いわゆる「記者クラブ」は、加盟する報道媒体に制約があり、幹事社が取り仕切るのが一般的です。訓練された記者が記事を書くので記事の品質は一定レベルを維持できますが、経済的・政治的な支援者や協力者の影響を受ける可能性や、現場と乖離した机上の空論に陥らないとはいえません。OSS(オープンソース・ソフトウェア)の世界でいう「カセドラル」型といっていいでしょう。

 対置する「バザール」はいわゆる「市民ジャーナリズム」ですが、既存の報道媒体やブログが掲載した記事の焼き直しに陥る危険性を持っています。不特定多数の無責任な情報発信が、特定の意図を持った誹謗中傷や風評被害につながるかもしれません。

 そこでIT記者会は、参加者と記事について、次のような要件を定めました。

 (1)報道媒体でなく個人とし、職業ライター/エディターに限定しない。

 (2)参加者は幹事が審査し、記事はプロのライター/エディターがチェックする。

 (3)情報発信手段の質(紙、ネット、口コミ等)を問わない。

 (4)発表資料は原文を掲載するか、原文を参照できるようにする。

 (5)オリジナルの記事は執筆者の実名、取材日時・場所を記載する。

 市民ジャーナリズムの考え方を継承しつつ、プロのライターやエディターの知識・ノウハウで“暴走”に歯止めをかける仕組みです。

 また「開かれた記者クラブ」とするため、「オフィスの運営を特定の機関・団体・企業に依存せず、財源は有志個人・法人(企業・団体)の年会費でまかなう」こととしました。


フリーランスの自己再生

 IT分野に特化した業界広報の役割を担う——とはいえ、公共的な立ち位置なので、組織としてはおのずから非営利となります。事務局の運営費は会費で賄うとしても、記者会に加盟するライター/エディターに無償の社会奉仕を強いることはできません。

 特にフリーランサーは「記事を書いてナンボ」で生計を立てています。そこでIT関連企業や業界団体、官公庁などから調査事業を受託し、その仕事を加盟フリーランサーでこなす、という仕組みを考えました。インタビュー・記事執筆の能力を活かして報告書を作ることができますし、日ごろの取材にも役立てることができるでしょう。それによってフリーランサーはIT専門の記者/編集者として自己再生が可能になります。

 これはなかなかいいアイデアだったのですが、困ったのは「誰が仕事を持ってくるか」でした。1人でできる仕事なら自分でこなしたほうがいいので、記者会に持ち込んでこない。みんなでやったほうがいい仕事があったとしても、営業の経験がないので見積もりができない。しばらく悪戦苦闘しているとき、支援会員になっていただいていたIT企業やPR代理店が「こんな調査をやってくれますか?」と話を持ちかけてくれるようになりました。

 リーマンショック(2008年秋)を境に市場調査やユーザーの動向調査を外だしする企業が減少し、ライターへの支払いを優先したところ、2011年度はトータルで赤字となってしまいました。このため、2012/2013年度はまとまった受託事業を行っていません。2014年度から再開する予定です。